中国が実現した量子衛星通信と新たな暗号化システム

2018/10/19 ーーー おそらく中国以外の国々も、衛星を介した量子通信にチャレンジしているはずです。しかし、2016年に打ち上げられた Micius という衛星により、中国は一足先に大きな成果を上げています。「スプートニク・ショック」という表現を、各メディアが用いたように、当時のソ連に有人宇宙飛行で遅れを取って以来の衝撃が、米国を揺るがしました。

実際に運用されたアプリケーションはビデオ・カンファレンスですが、衛星通信を介した量子の絡み合い (エンタングルメント) が用いられ、ハッキングが不可能な暗号経路が構築されています。ビデオ・カンファレンスで用いられる映像や音声のデータは、ファイバを介して送受信されているはずです。ただし、共通暗号鍵は衛星を介して配信され、この衛星回線がハッキングされる瞬間に、その試みは露呈するため、次の共通暗号鍵に切り替えられてしまうという構造になっているようです。

EU では European Space Agency (ESA) が、共通暗号鍵自身の生成を衛星上で行い、暗号鍵へのアクセスを物理的に排除するという試みを推進しています。この ESA には (中国の Micius プロジェクトに協力する) オーストリアの研究者たちも参加しているので、中国との関係がちょっと気になります。

現行の数学的な複雑さを用いる暗号化と異なり、この絡み合い (エンタングルメント) は量子物理学を用いるものであり、NIST などが推進しているポスト量子暗号テクノロジーと組み合わせれば、これまでとは異なるレベルでセキュリティを保証する、最強の暗号化テクノロジーになります。したがって、最初にニーズは政治/軍事にあり、コスト面で採算が取れるようになれば、金融などの分野にも応用されていくでしょう。

以下は、2017年8月11日に公開された China Just Used a Quantum Satellite to Send Data from Space to Earth という記事の抄訳です。

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中国という国家と、量子通信の世界にとって、偉大な第一人者である QUES (Quantum Experiments at Space Scale) プロジェクトの研究者たちは、量子衛星と量子暗号を用いて、宇宙から地球へのデータ送信を成功させた。QKD (quantum key distribution) テクノロジーのおかげで、データが解読されなくなる可能性が生まれていく。そして、今回の成功は、2016年8月に打ち上げられた衛星からの、最初の送信となっている。

いまの暗号化テクノロジーは、伝統的な数学に基づいている。現時点において、それらはハッキングに対してほぼ安全とされるが、私たちが認識しているように、量子コンピューティングの時代になると、暗号化の方式は完全に変化するだろう。したがって、量子暗号と QKD テクノロジー用いた変換暗号を、中国は活用したいと望んでいる。QKD では、光子を用いてデータが送信される。それにより、異なる場所にいる2人のユーザーが、秘密鍵と呼ばれるランダムなビット列を、共通の文字列として生成することができる。

Image Credit: Chinese QUESS Research Team

ハッキングを目的とした場合、正確な形で光子をコピーする方法がないため、この種の暗号化は解読不能とされる。また、光子を測定することで、光子自体が妨害されるため、不正アクセスに関する手がかりがユーザーに提供されてしまう。

このテクノロジーは、サイバー・セキュリティの在りかたに大きな影響を与える可能性がある。企業間のオンライン通信は安全になり、電子商取引においてはハッキングや個人情報の流出などの問題が消えていく。また、プライベートな通信を、政府が偵察することも、はるかに難しくなるだろう。つまり、世界中の政府機関や諜報機関にとって、大きな関心事になっている。

中国における、この画期的な伝送方式は、宇宙から地球へ向けて約 1,200キロメートルを接続し、同じ長さの光ファイバーの 20倍という、桁違いの効率アップを達成している。この伝送方式は、以前の認識であった数百キロメートルという限界と比べて、はるかな長距離を接続している。中国は、2030年までに宇宙開発のリーダーになることを目論んでいるが、その計画には、2020年までに火星に到達することも含まれている。

中国が想定している未来は、地上の送信網と衛星による通信網を、QKD ネットワークで相互作用させることである。つまり、今回の成功は、このビジョンを実現するための第一歩となる。

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こうして中国は、2017年の夏に量子衛星を用いて、宇宙から地球へ向けてデータを送信しました。文中でも指摘されているように、量子暗号を活用すると、データ解読を不能にするという可能性が生じます。また、新たなサイバー・セキュリティの実現は、地球規模での量子ネットワーク計画を具体化する、重要なステップになるとも言われています。

そして、同年の秋には、オーストリアとの間で、量子暗号を用いたビデオ・カンファレンスを実現しました。次回は、そのトピックと、量子暗号テクノロジーの詳細についてお伝えします。