量子アクセラレータとエコシステム

2018/10/17 ーーー 第三回目は、Challenge #3: Assembling and programing qubits as a QC accelerator です。この章では、何が解決すれば、一般的なプログラマが量子アクセラレータを活用し、次世代サービス/アプリケーションを書けるようになるのか、という視点が語られています。

前回で解説したように、まず、量子物理学者に解決してもらうものとして、補正のための量子ビットを正確に動かしてもらうという事柄が挙げられています。ただし、この点に関しては、単なる工学的課題であるという意見もあります。

2016年に NIST が、ポスト量子のための暗号スタンダード策定に取り掛かりましたが、その背景には、量子誤り訂正符号と閾値定理の開発が、順調に進んでいるという認識があるのでしょう。

こうした、量子コンピュータを正確に機能させるための努力の上に、本題である量子アルゴリズムが構築され、それらを利用する開発エコシステムが生まれていくわけです。そう考えると、かなり長い道のりが残されているように思えます。

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現時点の最大の関心事は、シングル・ファンクショナル論理 Qubit を、誰も公にしていないという点である。 すべてのデモンストレーションは、物理 Qubits のみを用いている。研究者たちが数十の物理 Qubits の操作と測定に関する、オーケストレーションに興味を示すにつれて、いまのデモンストレーションはますます複雑になっている。例を挙げると、51の物理 Qubits を実装するロシアのチームが、この分野をリードしている。

128 Bit を超える暗号キーなどの、現実世界における実用的な問題を解決するには、絶対ゼロ度に近いところで数千の論理 Qubits を組み合わせ、それらをオーケストレーションする必要がある。また、量子コンピュータ・アーキテクチャ用における、複雑なプログラムの記述についても学習する必要がある。Shor や Grover のアルゴリズムなどを用いて、暗号キーの解読時間を短縮するために有用な、プログラムを書くための量子コンピュータ・アルゴリズム・フレームワークも必要だ。しかし、量子コンピュータの研究者たちは、Qubits 間の相互作用を表現(前述の波紋の重ね合わせ)するために、それらのアルゴリズムを活用する方式を、まだまだ理解していない。

つまり、研究者たちは、何千もの論理 Qubits を確実に調整できる、量子コンピュータ・システムの構築方法を学んでいる最中となる。そして彼らは、それらの Qubits を用いた、効果的なプログラミング方式を学んでいる。その後に、量子コンピュータ・システムを商用化するためのソフトウェア・エコシステムを構築する必要がある。 もちろん、そこでも数千の Qubits 構築が必要となる。

GPU をモデルとするなら、量子ソフトウェアの抽象化レイヤーを実装し、使いやすい開発環境を提供する必要がある。そうすれば、平均的なプログラマであっても、量子コンピュータ・システム固有のプログラミング方法を理解は不要となり、計算アクセラレータとして量子コンピュータ・システムを使用できるようになる。

物理量子ビットには、すぐにでも取り組める、いくつかの応用分野がある。その中でも、最適化に関する問題と、量子化学の問題が解決されていくだろう。それらの問題の多くは、数百から数千の物理量子ビットを使って解くことができる。

ディープ・ラーニングに多額の投資をしている数多くの企業が、ディープ・ラーニング・トレーニングを加速させる物理キュビットに期待している。Alibaba や、Google、IBM、Microsoft、Tencent などの企業が、そのための研究に集中している。ディープ・ラーニング・モデルの作成プロセスに量子コンピュータを統合することは、横展開における正当な方式である。なぜなら、ディープ・ラーニングの抽象化層により、量子コンピュータ・プログラミングは人間のプログラマから隠されるからである。

物理 Qubits に投資している企業の多くは、これからの 5年〜10年以内を目処に、量子コンピュータ・アーキテクチャの商品化を実現しようとしている。このフィールドで競合する各社の投資レベルがあれば実現可能と思われるが、依然として研究の進展に依存しており、画期的な計画は立てられていない。

これまでに会話したことのある、すべてのQC研究者たちは、「論理 Qubits をベースとする商用量子コンピュータ・アクセラレータを世に出すためには、少なくとも 15年がかかる。つまり、最短でも 2030年代の初めになる」と述べている。その他にも、解決すべき基礎的な科学の課題が残っている。その科学的な要素を商業化するには、時間がかかるだろう。同様に、量子コンピュータ・アクセラレータを幅広いプログラマが利用できるようにするための、プログラミング・エコシステムの構築にも時間がかかる。

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この20年ほどの間に、私たちが見てきたのは、プロプライエタリ・ソフトウェアの凋落と、オープンソース・ソフトウェアの台頭です。そして、オープンソースをベースとしたクラウドにより、ソフトウェアはライセンスされるものからサブスクライブされるものへと変化してきました。その一方で、GPU ベースの並列コンピューティングにより、最適解を求めるためのアルゴリズムと、それらを既存のシステムから活用するために API が考案され、機械学習や人工知能といった分野が注目を浴びる時代になってきました。

こうした、ソフトウェア経済の変化を考えると、量子コンピューティングがソフトランディングするための環境が、すでに揃っているように思えてきます。つまり、量子コンピューティングは、多くの人々に利用される特性を、生まれながらにして有しているのです。

そして、どのように時代が変化しても、つねに中心に座っているのがエコシステムです。したがって、量子コンピュータを開発する大手ベンダーたちが、エコシステム作りに着手しています。以下のリ ンクは、2018年6月〜8月の、量子オープンソースに関するものです。IBM/Google/Microsoft などが、躍起になっている様子が見て取れます。

Quantum open source fund launched

Google launches quantum framework Cirq, plans Bristlecone cloud move

Google’s New Cirq Project Aims to Make Quantum Computers Actually Useful

Google Cirq: a Python Open Source Library for Quantum Computing

Open-Source Software Framework Makes Quantum Computing More Accessible

Microsoft Quantum Katas Help Developers Discover Quantum Computing with Q#

Inside Qiskit, IBM’s open source quantum computing framework

ソフトウェアがソフトウェアを書くという時代が、やがては訪れるのかもしれませんが、そのためにも超えなければならないハードルが、量子コンピューティングということなのでしょう。