はじめに:量子コンピューティング/コミュニケーションの現状

2018/10/09 ーーー Alibaba/Google/IBM/Tencentや、学術/国家研究機関(中国、欧州委員会、ロシア、米国を含む)などが、現実世界の問題を解決するために、量子コンピュータ (QC) アーキテクチャの研究開発を進めています。また、2017年には、Microsoft も量子コンピュータについて発表し、それに続いて Intel も、量子アーキテクチャのチップ化について発表しました。

量子コンピューティングとは、個々の原子核粒子を計算要素として使用するという、量子物理学の実用的な応用形態のことです。そして量子コンピュータには、既存のコンピュータとは比較にならないほどの計算速度で、複雑な問題を解決していくというメリットがあると言われています。また、量子の絡み合い (エンタングルメント) を用いて、ハッキングが不可能な通信を確立することも可能です。

量子コンピューティングの世界には、コンピューティング、コミュニケーション、シミュレーション、センシングという、4つの分野があると言われています。しかし、それらを実現するためには数多くの課題が残されています。よく言われるのが、量子を安定させるために必要な温度という課題です。

ケルビンの絶対温度以下という、宇宙空間よりも低温にするために使用される冷蔵庫は、$500,000 以上の費用がかかると言われます。コストもさることながら、そのサイズも気になります。いずれにしても、私たちがに日常で用いる PC や スマフォに収まるまでには、それが実現するにしても、かなりの年月がかかることでしょう。

もう一つの大きな問題は、量子コンピューティングのためのアルゴリズムが、きわめて難解なものになるという点です。しかし、既存の GPU (graphics processing unit) アクセラレータを用いるコンピューティングについても、アルゴリズムを理解している人は数少ないはずです。そして、従来型のプロセッサと API 接続されたプログラムが、スケジュールされているという現実があります。その点で、QC と GPU の応用形態は似たものになるのかもしれません。

量子冷蔵庫も、量子アクセラレータも、クラウドという環境を用いれば、けっこう簡単に解決しまうでしょう。Google/IBM/Microsoft などの米国勢は、クラウド上でのパーシャル量子コンピューティングの商用化を目指すはずですし、Alibaba/Tencent/Baidu などの中国勢も同じ戦略を持っているはずです。つまり、一般的なクラウド・ユーザーは、放っておけば量子の恩恵を被ることになります。

そうなると、量子コンピューティングに対する理解も不要なのかという疑問が生じますが、どのような領域が、いつごろ量子化されるのか、という予測は不可欠です(もちろん、基礎技術としての量子物理学や量子アルゴリズムの研究は重要であり、台湾では量子教育への取組が始まっています) 。さらに言うなら、そのための準備を怠ると、とんでもない状況に陥る可能性もあるのです。

たとえば人間の一生をかけても計算が不可能な問題であっても、量子コンピュータであれば迅速に解決できる可能性があります。具体的な量子コンピュータの応用分野として、暗号化キーの突破が挙げられています。また、それに対応するものとして、耐性量子暗号化が急がれています。いくつかの文献によると、量子コンピュータが暗号キーを解読することは、早くても 2030年代とされていますが、それほど猶予がある話ではありません。

暗号の話も、機械学習や人工知能の話も、量子コンピューティングが実現する桁違いの計算能力に関連するものです。その一方で、量子の絡み合い (エンタングルメント) を利用する QKD (Quantum Key Distribution) を用いて、2017年に中国が成功させた実験についても、概要を捉えておく必要があるでしょう。

2016年8月のことですが、中国は量子通信衛星 Micius の打ち上げに成功しています。そして、2017年6月には、この量子衛星と量子暗号を用いて、宇宙から地球へのデータ送信を成功させました。そこで用いられた QKD テクノロジーは、暗号の解読を完璧に防ぐという可能性を秘めています。

量子暗号により軍事分野は様変わりするでしょうが、それを推進するものとして、量子レーダーの存在もあげられます。2018年4月のことですが、カナダの University of Waterloo が開発しているテクノロジーにより、北極圏に設置されている同国のレーダー・システムが置き換えられるという報道がありました。そこでは、絡み合った光子のペアが分離されるというプロセスが用いられると紹介されています。

こうして、量子コンピューティングの領域を眺めてみると、異次元のイノベーションを予感させられますが、技術と時間軸に不確定要素が多いことも指摘されています。しかし、それらもいずれは解決されるのでしょう。考えてみれば、1940年の ENIAC から最新の iPhone にいたるまで、電圧を用いてビットを表現するコンピュータが、ずっと変わらずに用いられています。もちろん、電子回路は洗練され集積度も格段に向上していますが、その基盤となる方式としては、低次元の物理法則が使い続けられているわけです。

その点、量子コンピュータで用いられるのは、これまでのコンピュータとは根本から異なる、量子のスピンという高度な物理法則です。量子には zero/one/another というプロパティが存在すると捉える人もいるようですが、ディジタルという概念をを発見し洗練させてきた人類が出会うべき、宇宙の法則からの贈り物が、量子コンピューティングなのだとも思えてきます。

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このブログを始めようと思い立ったのは、2017年7月のことです。その頃は、量子コンピューティングの世界が、まったく分からないという状況でした。でも、電圧でビットを表現するコンピュータが、いつまでも続くはずはないという思いが、その後の一年間余を通じて AgileCat Qubits を準備する、最大のモチベーションとなりました。 これからの予定ですが、一週間に2本くらいのペースで、以下のような記事をポストしていこうと思っています。

・量子コンピュータは API を介して活用される
・不安定な量子を正確に機能させるために
・量子アクセラレータを実現するまでの道のり
・中国が実現した量子衛星通信と新たな暗号化システム
・量子衛星 Micius と中国/オーストリアの実験
・NIST が提唱するポスト量子暗号化の世界

その後ですが、2017年の初めに時計を戻して、各月の気になるニュースの抄訳をポストしていきます。今年の年末あたりには時間も追いつき、この 2年間の量子コンピューティング/コミュニケーションを巡る動きが共有できると思っています。そのためのリソースをシッカリと溜め込んできたのが、AgileCat Qubits  の自慢です 🙂 とはいえ、あくまでも目線は「量子なんてぜんぜん分からい」であり、素人による素人のための量子情報をお届けしたいと思っています。